2010年6月7日月曜日

椋鳩十今だ死せずー鹿児島県立図書館

鹿児島県立図書館
4月25日(金)午後
対応:津田修造館長
図書館訪問の目的は、「母と子の20分間読書運動」のその後を知るためである。久保田彦穂(椋鳩十)が館長時代の図書館は、県立文学館となり館長室はそのまま保存されているという。 
久保田彦穂が鹿児島県立図書館長になったのは昭和23年、43歳の時である。彼は、昭和41年まで図書館長を歴任するわけであるから、実に足掛け18年もの館図書館長を努めたこととなる。退職後は鹿児島女子短期大学大学の教授(児童文学、図書館)として教鞭をふるった。久保田のあとを継いだのが、高士与一(たかしよいち)である。
図書館長としての経歴は長いが基本的には、文学をよくする国語教師であったと思う。人間教育の手段として読書運動を位置づけた根源に何があったのが、なぜPTA読書ではなく母とこの読書だったのか、ということに私の問題意識がある。  

『読書運動』(叶沢清介編、社団法人日本図書館協会、1974)によれば、鹿児島県立図書館の読書運動における「農業文庫」は本を利用する型の読書形態、「母とこの20分間読書」は「本を楽しむ型」の読書形態だという。1963年当時鹿児島県内外には5000をこす読書グループがあったとされる。また、県立図書館は館内利用者のための予算に3倍する予算を充当して、市町村図書館や公民館図書部を通じてこれらのグループのために予算を充当した(間接方式)。
各種の参考資料、講師の斡旋、図書館間の資料の相互貸借などを積極的に行う(共同経営方式)、各種機関の活用、専門家やボランティアの積極的な助力(千手観音方式)などを縦糸としてこの運動を展開したとされる。(参考資料:「鹿児島県立図書館の館外活動のあり方」椋鳩十『図書館雑誌』1963年9月、ならびに「立体的読書活動」『鹿児島県読書活動調査報告』1962年)
昭和30年代の読書運動として、概ね4つほどの読書運動体があった。長野県のPTA母親文庫、 滋賀県の「明日からの課程を明るくするための本を読むお母さんの運動」高地市民図書館の運動(団体貸出し)、そして「母子20分読書」運動である。これらの運動は、お互いがお互いを意識したわけでもなくいわば自然発生的に生まれてきた。そしてどの運動にも共通しているのが、母親と子どもを主な対象としていること、公民館図書部や生活改善運動と結びついた運動であったことである。戦後民主主義思想の普及、女性解放の思潮を農村にも広げようとする本能的な同木津kwに乗った読書運動であったといえようか。そして、県立図書館や市民図書館の弱体化を記に財政的な基盤を奪われ衰退していった。まt、承和40年代以降、農村経済事態の急激な崩壊かとともにこれらの運動は急速に影響力を牛待っていったのではないだろうか。

私の関心は、このような地方における生活環境の変化の中で「母子20分読書」運動がどのような変遷を今日まで辿ったのか、または衰退していったのか。

注目したいのは、久保田が在籍していた昭和39年に「母子20分読書」運動を支える側面援助的正確が濃厚であった「心に火をたく献本運動」(実質的な献金運動)が3年間の期限を終わるとともに久保田が館長を退き、その後に「幼児に本を読んであげましょう」運動が開始されていることである。久保田のあとを引き継いだ館長は、新納教義であった。新納は昭和48年10月まで、館長職にとどまり児童室の充実や鹿児島方言などの収録を始める事業を着手するが、心に火をたく・・は件本運動とは証しているが、脆弱化した予算を補うための穴埋め的な性格をたぶんに持っていたのではないかと思われるのである
「母子20分読書」との違いは対象が小学生から就学前年齢に下げられていること、母は子の読書を聞く立場から子に読み聞かせする立場に逆転するのである。主体が子から親に転化している。さらに、この読書運動は平成13年「絵本による子育て支援プロジェクト事業」(3ヵ年)―自ら本に手を伸ばす子ども育成事業―へと発展していくこととなる。
久保田の描いた「館内利用者のための予算に3倍する予算を充当して」という思い切った予算の充当策と図書館や公民館を通じての間接方式、専門家やボランティアなどによる決め細やかな支援体制(千手観音方式)は永年にわたって鹿児島県立図書館および県内の図書館に生き残っていた。

筆者が見学を許された範囲の中での感想もそのことを示すいくつかの事実を確認した。
平成15年度まで巡行していた巡回車(自動車図書館)は、50地町村の自治体に対し春夏二回にわたって貸出し文庫を巡回していた。成人図書、児童図書、中学生向け図書、絵本、紙芝居など2000冊程度ををパックングして配本してまわっていた。そのため専任に正規職員2名を配置し、1,100万円円程度の予算を確保していた。複本も10冊まで用意していた。現在巡回用の車は動いていず、宅配便を使って一度に500冊程度の資料を配本している、専任職員も1名、予算も3分の1程度ととなっているが、脈々と続いている読書支援活動なのである。
一方鹿児島市立図書館では『家族ふれあい読み聞かせ教室』『楽しい親子読書教室』『親子読書グループ集会』にくわえ、「椋鳩十児童文学賞」(1等200万円)作品展を行うなど市レベルにおいても読書運動の命脈が受け継がれているようである。

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